聖なる夜に新しい恋を

「ありがとう。じゃあジンで何か作ってもらおっかな」

「ほんとに?ジュースじゃなくて良いの?」

「うん。三田くんの話、楽しいから。お酒と一緒にゆっくりしながら聞きたいかな」

「何それ。おっけー、ジンね」


 彼女の返答に、気を遣わせてしまったと話したことを後悔した。酒でも入れないと聞けないような話を振ったのは、他でもない俺自身だ。

 せっかくご所望のところ申し訳無いが、彼女のジンは少なめに入れ、薄めに割って仕上げた。──彼女が俺を拒めるように。まだ終電を気にする程では無いが、彼女を部屋に招いてからもう結構な時間が経っている。



 キッチンから部屋に戻れば、彼女はあと一口といったところまでケーキを食べ進めていた。対して俺は、まだ半分といちごが残ったままだ。


「はい、ジンバック。紗礼さんはこれでお酒終わりね」

「えっ、何で?」

「酔ったら転んじゃうでしょ、帰り道」

「……今日はまだ歩けるって。もう、からかわないでよ」


 否定する彼女のいじけた顔もかわいらしい。そんなことを思いながら、ケーキの残りを食べる。が、必然的に先に食べ終えた彼女に鑑賞されながら食べることになり、気まずさを感じてしまう。


「……そんなに見つめられたら食べにくいんですけど」

「いやー、チーズケーキも良いけど、ショートケーキもおいしそうだなあって」

「じゃあ食べる?……はい、どうぞ?」

「!っや、やめとく!」

「どうして?別に遠慮しなくて良いって」

「違ッ、だって、か、かんせつ……キス……」


 彼女の語尾がどんどん小さくなり、俯いて顔を染めた。自前のフォークで切り出したそれは、確かに間接キスになる。真面目な彼女なら気にしそうなことだと合点がいき、小さく笑ってしまった。


「そっかそっか。じゃあこっちは?これなら間接キス、気にしなくて良いでしょ?」


 そう言って、いちごをつまんで差し出した。食べた断面でも無く、使っていたフォークにも刺していない。これなら気にせず食べられるはずだ。


「い、いちごはもらえないよ。三田くん、せっかく最後まで残してたのに」

「良いって。紗礼さんなら、とっておきあげても惜しくないから」


 そのとっておきは、いちごに限った話じゃないけれど。そんな本心は隠したまま、優しく微笑んでみせた。


「……ほんとに良いの?」

「うん。遠慮なくぱくっといっちゃって」

「それじゃあ、お言葉に甘えて。いただきまーす」


 そう言って、彼女が身を乗り出した。

< 48 / 57 >

この作品をシェア

pagetop