聖なる夜に新しい恋を
「ありがとう。じゃあジンで何か作ってもらおっかな」
「ほんとに?ジュースじゃなくて良いの?」
「うん。三田くんの話、楽しいから。お酒と一緒にゆっくりしながら聞きたいかな」
「何それ。おっけー、ジンね」
彼女の返答に、気を遣わせてしまったと話したことを後悔した。酒でも入れないと聞けないような話を振ったのは、他でもない俺自身だ。
せっかくご所望のところ申し訳無いが、彼女のジンは少なめに入れ、薄めに割って仕上げた。──彼女が俺を拒めるように。まだ終電を気にする程では無いが、彼女を部屋に招いてからもう結構な時間が経っている。
キッチンから部屋に戻れば、彼女はあと一口といったところまでケーキを食べ進めていた。対して俺は、まだ半分といちごが残ったままだ。
「はい、ジンバック。紗礼さんはこれでお酒終わりね」
「えっ、何で?」
「酔ったら転んじゃうでしょ、帰り道」
「……今日はまだ歩けるって。もう、からかわないでよ」
否定する彼女のいじけた顔もかわいらしい。そんなことを思いながら、ケーキの残りを食べる。が、必然的に先に食べ終えた彼女に鑑賞されながら食べることになり、気まずさを感じてしまう。
「……そんなに見つめられたら食べにくいんですけど」
「いやー、チーズケーキも良いけど、ショートケーキもおいしそうだなあって」
「じゃあ食べる?……はい、どうぞ?」
「!っや、やめとく!」
「どうして?別に遠慮しなくて良いって」
「違ッ、だって、か、かんせつ……キス……」
彼女の語尾がどんどん小さくなり、俯いて顔を染めた。自前のフォークで切り出したそれは、確かに間接キスになる。真面目な彼女なら気にしそうなことだと合点がいき、小さく笑ってしまった。
「そっかそっか。じゃあこっちは?これなら間接キス、気にしなくて良いでしょ?」
そう言って、いちごをつまんで差し出した。食べた断面でも無く、使っていたフォークにも刺していない。これなら気にせず食べられるはずだ。
「い、いちごはもらえないよ。三田くん、せっかく最後まで残してたのに」
「良いって。紗礼さんなら、とっておきあげても惜しくないから」
そのとっておきは、いちごに限った話じゃないけれど。そんな本心は隠したまま、優しく微笑んでみせた。
「……ほんとに良いの?」
「うん。遠慮なくぱくっといっちゃって」
「それじゃあ、お言葉に甘えて。いただきまーす」
そう言って、彼女が身を乗り出した。