聖なる夜に新しい恋を

◇◇◇

 彼から渡された、ひとつめの袋を開けた。小ぶりな袋の中から現れたのは、裏に何やら太陽のようなモチーフが刻まれた丸い鏡。サイズ的には、持ち運びより卓上で使う大きさだった。ローテーブルに置くと、メイクの少しよれたいまいちな自分の顔が写し出される。


「肌の色が正確に見える鏡、だって。お仕事的にも有って損はないかなって」

「あ、ありがとう」

「それに、俺と会う時はよくメイク流れてるから、顔を見直すものが必要かと思って」

「ちょっと!それはたまたまだから!」


 今日もいつも通り、からかわれてばかり。こんな時でも彼のペースに乗せられる。

 鏡を置いたまま、ふたつめの袋を開けた。大きくて柔らかい袋から出てきたのは、手触りだけでわかるほど、ふわふわと暖かそうな布。広げて見てみると、無地のマフラーのようだ。


「……こっちは要らないかもって思ったけど、いつも首元寒そうだったから。カシミヤだからあったかいと思うよ」

「そんな良いもの……申し訳無いよ」

「気にしないで。俺が勝手に渡してるんだから」

「……ありがとう、心配してくれてたんだ」

「だって、いつも俺より軽装だったでしょ?あんな薄いトレンチだけじゃ冷えちゃうって」

「そ、それは、そうかも……」


 彼に心配をかけたのは申し訳無いが、外回りでは荷物になるので使いたくない。そうは言ってもせっかくのプレゼントだ、通勤とプライベートで使わせてもらおう。そう考えながら、袋の中へ戻した。


「何かごめんね、もらってばっかで」

「良いって、急に呼び出したのは俺だし、プレゼントも俺が渡したかっただけだから。使いにくかったら捨ててもらっても良いし」


 ふわりと柔らかい笑みを浮かべる彼は、本当に優しさそのものだった。先週会ったばかりの女にここまでしてくれるのは、正直なところ不思議でしかない。
 とはいえ、貰いっぱなしも申し訳が立たない。彼へお返しが出来ればと思いながら、おずおずと口を開いた。


「……あの、三田くん」

「ん?」

「何か欲しいものとかある?その、次会う時までに用意してお返ししたいなって」

「え?俺がリクエストして良いの?」

「うん。プレゼントも今日呼んでくれたのも、嬉しかったし。それのお礼をしたいから」

「うーん、リクエストかあ……」


 空を見上げる彼。数秒置いて、こちらへ真っ直ぐな眼差しを向けた。それに射抜かれ目を逸らせないまま、ふたりの時が止まって。静かになった部屋の中で、彼の口が願いを紡いだ。




「──俺、紗礼さんが欲しい」

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