聖なる夜に新しい恋を
息を呑む。声が出ない。こうなるかもと考えていたが、彼へ委ねたのは私自身だ。
覚悟を決め切らない私に、彼は続ける。
「紗礼さんが嫌なら断って良いし、お返しだってしなくて良い。だけど、紗礼さんに特別な人が出来るまでは、勝手に好きで居させて欲しいな」
「っ──」
「……遅くなったし、今日のところはお開きにしよう。返事は、また今度聞かせて」
そう言って、彼は立ち上がって壁際に掛けていたコートを取りに向かった。私も後に続いて、立ち上がって歩き出す。
でも彼とは違う。私が向かうのは──。
「三田くん!」
「ぉわっ!…………何なに、またイタズラ?」
「違っ、あの、」
「それとも、また酔って転んじゃった?」
「……」
「?……紗礼さん?」
私の短い腕から解放され、壁から私の方へ向き直る彼。頭上から降ってきた声は、純粋な疑問を秘めた問い掛け。私は、彼に応えなければ。
「…………さっきのリクエストの返事、今でも良い?」
「うん……」
少し冷たそうな彼の返答。きっと、期待した答えが帰って来ないことを予期してのことだろう。彼には、伝えておきたい気持ちがある。
「…………わからないの」
「何がわからないの?」
「三田くんが好きになれるか、わからないの。たぶん、三田くんのことをまだまだ知らないから」
溢れた言葉は本心だった。彼への好意は抱いているが、知っていることなんてひと握り。この先深く付き合って本性を知っても、好きで居続けられるかどうかは、自分でもわからない。
「……そっか。じゃあ、」
「だからっ、私に教えて欲しいの!」
「……へ?」
「三田くんのこと、もっと知りたくて。その、声も、姿も、考え方も、生き方も。三田くんを全部見てみたくて。だから、」
「……だから、なあに?」
「──私を、貰って欲しい」