聖なる夜に新しい恋を
恐る恐る見上げると、黙ったままで目を丸くした彼。予想外の反応に、心の中がざわざわと不安で埋め尽くされる。黙ったままの彼が心配になり、顔を覗き込む。
「あ、あの……?」
「……」
「三田くん?…………ひゃっ!」
体の重心も、景色も。そして、体を包む圧も。本日二度目のハグは、驚いたのは一瞬だけで。言葉の要らないふたりだけの空間で、彼の大きな腕に身を任せて、溢れんばかりの愛を享受した。
しばらくの後、部屋の端に鎮座するセミダブルのベッドに座らされ、彼もすぐ横へ腰を下ろした。
「……今、俺、めっちゃ嬉しい。嬉しいけど、紗礼さんにいくつか確認しておきたいことがあるんだ」
「え?」
飛び出た言葉に、喜ぶ彼とは裏腹に、どんな尋問がなされるのかと気が気じゃなかった。
「ひとつめ。今の返事はお酒が入ったせい、じゃないよね?」
「うん」
「ん、おっけー。次、ふたつめ。今日はもうお開きにする?」
「……嫌だ」
「じゃあ追加でみっつめ。今日帰せないと思う。それでも良い?」
「っ……」
「……紗礼さん、言ってくれなきゃわかんないでしょ」
「〜〜〜〜〜っ、うん」
聞かれているのは、私のこの後のこと。だのに、横に居るのに彼に顔が見せられないほど、今の私は顔が火照っていて。
きっと彼はわかって言っている。それをわざわざ言わせるなんて。こんな時でさえ、いつも通り意地悪だ。
「それじゃあ最後、よっつめ。これは正解が無いから、自由に答えて」
「正解が無い?」
「そ。よっつめは、“三田くん”に代わる呼び方、ひとつ答えよ」
「!」
考えたこともない問い。だが、流石に無回答はまずいだろう。かと言って、どうすれば良いのかわからない。考えあぐねていると、横から吹き出す声がした。
「っは、前にも言ったでしょ。紗礼さん、考え過ぎ。もっとシンプルに考えてみたら?」
「シンプルに?」
シンプルに。名字にさん付けも駄目、名字にくん付けも駄目。名字が駄目ならば──。
「…………けいご」
「えっ」
「圭悟。圭悟で良い?」
「……」
「……圭悟?」
返事が消え、彼を覗き込む。目が合うと、彼が顔を変えにやりとしながら口を開いた。
「……上出来だよ、紗礼」
「えっ、私の名前……ひゃっ!」
驚いたまま、ベッドへ倒された。抱いた疑問は、彼が唇を食んで出せないままになり、頭の中で消えてゆく。彼の愛に溺れるように、シーツの海へ沈んでいった。
クリスマスは、独りで過ごすはずだったのに。私はその夜、新しい恋への一歩を踏み出した。
《終》