聖なる夜に新しい恋を
[番外編]沈まぬ太陽
◆◆◆
ふいに目が覚めると、時計は遠に日付を回った時刻を差していた。隣からは愛おしい小さな寝息が聞こえて来る。
(すごかった……)
昨晩の出来事に思いを馳せる。
一度目は、彼女のうねりに飲まれ、なす術なくギブアップしてしまった。数年ぶりの女体との交わりだったから?──いや、違う。女体なんて裸婦像だろうが生身だろうが、今までの人生でいくつも知り得ているのだから。愛だの恋だのと自分の感情が絡むと、あんなにも快楽の渦が押し寄せるのかと、新発見をしたような気分だった。成果物として抽出された袋の中のそれは、どっぷりと質量を持っていた。
袋を換えて、もう一度交わった。二度目は、少し余裕が出てきて、彼女の熱い口内を舌で探ったり、肌のやわらかさを堪能したり。隠し持っていた双峰が思いの外大きく、手に余るほどの収穫だった。途中鏡を覗き見たのが、俺以外を目に入れたのが気に食わず、名前を呼んで目の前の生々しい行為を見せつけた。布の海で溺れんばかりに身をよじる彼女に触れれば、電流を流したように飛び跳ねて。助けてと縋る白くて細い腕が俺を煽って。──たった数時間前のことなのに、今も彼女の啼き声が耳にこびり付いて離れない。
「……っ、くそ、」
記憶の反芻だというのに、自身の熱が首をもたげてきた。数時間前に欲望は放ったというのに、だ。裸体のままリビングを出て、キッチンの廊下に置きっぱなしのミネラルウォーターを段ボールから取り出して口をひねった。せめて水でも飲んで、冷静になりたい。
静かな部屋にはエアコンの風音がよく聞こえる。ケーキを食べたまま散らかったローテーブル、その横のラグの上に散らばる衣類。そしてネイビーのシーツが広がるベッドには、愛する人がそこに存在する膨らみが見えた。見える景色全てが、情事を物語っていた。
「ぬる……」
喉を伝う水は、裸体でも寒くない室温と同じ温度。すっきりとしない飲み心地に嫌気が差したが、鎌首をもたげていたそれはどうやら落ち着きを取り戻したらしい。飲みかけの水を冷蔵庫へ乱暴にしまうと、再びベッドへ戻った。
戻る途中、ローテーブルに置かれたままになっていた鏡を見た。彼女が情事の合間に覗き込んでいた鏡。何が映っていたのか。ガラス細工のように、繊細で美しい彼女ののぼせた顔だろうか。
先客の隙間にそっと潜り込めば、ひとりの時とは違う温もりと甘い香りで満たされていて。この世の幸せと平穏を、あたたかいベッドの中で噛みしめた。
「……紗礼、」
ぽつりと彼女の名前を呟く。彼女の耳に届くことなく消えてゆく声。それで良かった。もう彼女は俺のものになったのだから。
柔らかな肌を撫でながら、起こさないよう後ろから腕の中へ彼女を収め、夢へと旅立つ。
「おやすみ。愛してる」
愛の囁きに、んむ、と返事をするかのように彼女が寝返りを打ち、自分の方へと向き直る。かわいらしい寝顔に、思わず笑みが溢れた。そんな幸せな光景にシャッターを切るように、まぶたが落ちていった。