聖なる夜に新しい恋を
(……今のうちに着替えとくか)
彼がいないことへの疑問は残るが、考えていても埒が明かない。起き上がってベッドを出れば、ラグの上に衣類が散らばっていた。紙くずのように丸まったものと、貝のようにぱっくりと広がったものを手に取り、下着を身に着ける。
と。
「あ、起きた?おはよ。メリクリ」
「……メリー、クリスマス」
キッチンから現れたのは、パンツ一丁の呑気な彼。返事のために出した自分の声は、昨晩の出来事を主張するようにかすれていた。
「喉……あ!お水開いてるのあるから、ちょっと待ってて」
そう言って冷蔵庫から出してきて渡されたのは、残り半分程のミネラルウォーター。ベッドであたたまった体にはその冷たさがありがたかった。
「はいどうぞ。飲んで」
「あ、ありがとう」
体が欲していたからか、何故開いているのかなんて考えもせずに口をひねる。口を付ければ、冷たい水が体へ染み込んでゆく。昨日は酒浸りだったこともあり、やけにおいしい。やはり水は命の源なんだななんて思いつつ、こくこくと飲み進めた。気付けば、入っていた全てを飲み干していた。
「……飲み切っちゃった。ごめんね」
「いいのいいの、まだあるし。紗礼も喉乾いてたでしょ?」
「っ、うん、」
「それに、」
「……それに?」
まだ呼び捨てにされることが気恥ずかしい。彼の声に乗る自分の名前は、魔力を持っているかのようだった。昨晩だって、耳元で名前を囁かれれば、動いていなくとも腹の奥底が彼を欲しがっていた。
そんな恥ずかしい記憶を打ち消して、彼の次の言葉を待つ。
「……間接キス、成功したし、ね」
「!……ッ」
「何なに、まだ気にしてんの?昨日俺とあんなことやこんなことまでした仲なのに?」
「やッ、やめてよ!そりゃあ、昨日は……〜〜〜〜〜っ!」
昨日のことを再び思い出さされ、赤面しながらその場にうずくまった。恥ずかしさのあまり体が力み、ぺこん、と手に持ったままの空のペットボトルが鳴く。当たり前だ、他所の家の開封済みのミネラルウォーターなんて、主が飲んだに決まっている。というか、今もお互い下着しか身に着けていない。その事実に今更気付いてしまい、恥ずかしさが増幅した。
そんな私とは対照的に、涼しげに口を開く彼。
「今日どっか行く?」
「……へ?」
あまりの温度差に、気の抜けた返事とともに顔を上げた。