聖なる夜に新しい恋を
「クリスマスだし、せっかくだから外行かない?クリスマスデートってやつ」
「外かあ……」
「え、もしかして今日は外、出たくない感じ?」
「うーん……。一旦帰って着替えたいかな。服、昨日と一緒だし。あとお風呂も……」
二日連続で同じものを着たところで死ぬ訳では無いし、自分以外誰も気にしないかもしれない。が、昨日の行いでいろいろと汚れた体を何とかしたい気持ちは大いにあった。
「服はともかく、シャワー浴びてくればいいじゃん。うちにもあるんだし」
「それはそうだけと……お借りする訳には……」
「じゃあ決まり、シャワー行こ。ほら立って」
「え、あ、えっと、」
「立たないなら連れてくから」
「え?ちょっ……ひゃっ!」
ふわりと体が宙に浮く。抱き上げられたのだと気付きはしたが、後の祭り。遥か下に床があるように思えて、怖さから彼の首にしがみついた。そんな私にはお構い無しに、ずんずんと歩き出し部屋を去ろうとする彼。
「あああ歩けるッ!私歩けるから!三田くん降ろしてっ!」
瞬間、ぴたりと彼が立ち止まる。降ろしてくれるのかとほっとしたのも束の間、黙ったままUターンして彼が歩き出した。
「なッ、なになになに……ひゃうっ!」
ようやく降ろされたのは、先程まで居たベッドの上。体が地に着いた安心感とは裏腹に、何故か彼もベッドへ上がってきて。寝そべる私の上空に、四つん這いの彼の顔が現れた。これでは、獲物と猛獣ではないか。
「あ、あの……?三田くん?」
「紗礼。昨日のこと、お酒飲んだからって忘れてないよね?」
「う、うん」
「じゃあ予定変更。シャワーもお出掛けもそのあと」
「へ?」
「それに今なら脱ぐものも少ないし、ね」
「な、何の話?」
私も大人だ、彼の言わんとしていることはわかる。だが、何がそこまで彼に火を点けたのかがわからぬまま、話を続ける。
はあー、と長い溜息の後、彼が口を開いた。
「……名前の話。まさか忘れたなんて言わせないから」
「!……っごめん圭悟!まだ慣れてなく……んんっ」
謝罪の続きは彼に飲み込まれ、抵抗力を奪われる。力の抜けた体に触れられれば、腹の奥に燻っていた欲望がまた燃え上がり、昨晩と同じ声を出す生き物になるしか無かった。
カーテンの隙間からは、冬の柔らかな朝日が差し込む。まだ沈みそうもない太陽が、ひとつに溶け合うそれを覗き見ていた。