ひさしぶりに再会した幼なじみが総長様だったなんて聞いてません


 ギリギリのところで顔を横に背け、谷崎くんの拳を避けた。


「蜂屋てめぇ!」


「クソ野郎がっ!」


 奈緒くんは胸ぐらを掴まれたまま、右足を突き出して谷崎くんに膝蹴りをくらわす。

 手を離して怯んだ谷崎くんに、間髪入れず回し蹴り。

 左足を軸にして体を反転、その勢いに任せて右足を突き出す。


 谷崎くんのお腹に、奈緒くんの踵が突き刺さる。

 その勢いで体は後ろに飛ばされ、背中を校舎の壁に打ち付けた。

 白目になった谷崎くんは膝から崩れ落ち、気を失って地面に倒れてしまう。


 カーストの子たちは呆気にとられ、口を噤む。

 静まりかえる中で、奈緒くんは口を開いた。


「手は使わねえけど、足を出すとは言ってないぜ……」


 両手をズボンのポケットに入れたまま、勝負はすぐに終わった。

 場数を積んだ感じの喧嘩技に、何も言葉が出ない。

 見下ろすように、奈緒くんは谷崎くんを見つめてる。


 奈緒くんは私を救ってくれた王子さま、と喜びたいけど……

 相手は暴走族の総長。



 この後、奈緒くんは先の見えない抗争に巻き込まれていく……






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