いじっぱり姫の青葉色は。



 下ろした腕の先でぎゅっとグーを作った桐山は、完全に私の意思を無視するらしい。


 なに高校生にもなって駄々をこねているんだこいつは……。


 ちょ、拳をぶんぶん振り回すな!行動は3歳児でも、力は男子高校生かつ族の幹部なんだから危ないだろうが!私の麗しい顔に痣ができたらどうするんだ。まったく。


 近づく拳をよけつつ、桐山へ白けた目を向ける。すると、うるっと瞳を濡らした桐山は味方を求めて仲間の方を見た。


「ね、薫もやだよね? 撫子と仲良くなりたいでしょ?」

「どうでもいい」


 間髪入れられずに返ってきた答え。私の予想通り。


 ……ちょっと寂しい、だなんて思ってない。ウン、オモッテナイヨ。


 私のガラスの心のためにも、もっと言葉を選んでほしかったのはあるが!私にとってはすっごくありがたい助け船だったけども!そんな、切り捨てるように言わなくてもいいじゃんね……?


 微妙な心境が顔に表れそうになるのを堪え、私は桐山にも負けない晴れやかな笑顔を作った。そしてお別れのための言葉を紡ぐ。


「ほら、トップがこう言ってんだから諦めなよ。ってことで私はこの辺で失礼! 明日からは絡んでくるなよ!」


 挿しとくべき釘は挿したし、あとはこの場を立ち去るだけ。


 やるべきことが終わった私はくるりと(きびす)を返し、一歩踏み出そうとしたそのとき。


「―――待て」


 ……青葉薫は、なぜか私を引き留めた。



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