いじっぱり姫の青葉色は。



 ゆらりと揺れた黒髪は、地面に伏せた愚か者の耳元へと垂れて。


「顔、覚えたからな。次、撫子の前に現れたら……殺す」


 世界中の殺人鬼の殺意を集めて濃縮させたみたいな声で脅しをかけた。


 私なら二度と外を出歩かないし、二度とカーテンも開けない。宅配サービスも置き配一択にするレベル。


 今後、本気で怒らせないようにしよう……。もしも私にこんな声を向けられたら、軽口叩けなくなってしまいそうだ。


 と、いつもの調子で思考が回ることに安堵のため息を吐いていると。


「よかった……」

「あおば、かおる」


 突っ立っている私を見て安心したのか、私を強く抱き締めた。


 たぶん私を探すためにたくさん走ってくれて、そのせいで青葉薫の身体はちょっと湿っている。


 綺麗にセットされていた髪は風や汗やらで乱れてしまっていて、私に落ちてきた声はつい数秒前に脅しをかけていた人とは思えないほどに弱々しい。


 私、いっぱい迷惑をかけたんだ……青葉薫だけじゃなくて、きっと『守月』のみんなに。



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