いじっぱり姫の青葉色は。



「ごめ―――」

「―――どこも傷つけられてないか?」


 謝ろうとしたとき、がばりと身体を離した青葉薫。


 私の調子を伺うように、瞳を覗き込んできた。


 無機質だと思っていた漆黒の瞳には、焦燥やら心配やらの様々な感情が色濃く浮かんでいる。


 ……ほんとに、ごめんなさい。


「傷はないと思う」


 たぶん痣はできたけど、言わない方がいいよね。


 そう思いながら、無意識に手首へと視線を落としたのがよくなかった。


 目ざとい総長は私の左手を持ち上げると、下っ端の指の形になっている痣を見つけた。


 見てるだけでかなり痛い。


 触れるだけどころか見るだけで痛くなる呪いにかかったのは、どうやら私の方らしい。


 人を呪わば穴二つってか。わっはっは!


 ……いや、笑えないけど。


「あいつ、半殺しにしよう」


 その日の夕飯を決めるお母さんとまったく同じトーンの声が降ってきた。


 くるりと振り返り虚空を見つめる青葉薫は、視線を受けていない私でも足の先から震えあがるほどに恐ろしい。


「だ、大丈夫だって! それにもう逃げてるし!」

「探し出して報いを受けてもらう。絶対に」


 総長様は殺意を抜いた視線を私に向け、まるで誓うように痣の中心へと唇を落とした。


 その姿がどこか現実離れしていて、王子様のようで……本当に私がお姫様になったみたい。


 心臓が大きく、そして甘く音を立てる。


 こんなにかっこいいの、ずるい。


 私の自業自得なんだから、誓いを立ててもらう権利なんて私にはないのに。



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