【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。


 ***

 夕暮れの気配。
 薄暗くなった図書室に、魔道ランプのオレンジ色の光が灯る。

 その光が映り込んだ、ランティスのオリーブイエローの瞳は、夕暮れの際、一筋射した黄金の光のように美しい。

「そこが、我が家門に関する資料だ」
「ずいぶん上の方ですね? んっ!」
「…………この本か?」

 ランティスが手にしたのは、まさにメルシアがとろうとしていた本だった。
 差し出された本を、抱えてメルシアは「ありがとうございます」とほほ笑んだ。

「ああ……」
「とりあえず、一回家に帰らないと。多分心配していると思うので」
「そうだな。メルセンヌ伯爵には、連絡をしているが、心配されているだろう。直接ご挨拶に伺いたいところだが……」

 分厚い本を抱えたまま、メルシアはランティスを真っすぐ見つめた。
 ランティスの瞳には、やはりオレンジ色の光が映り込んで、美しい。

「今度、この本を読むので、取っておいてください」
「いや、侯爵家の馬車で送るから、持っていくといい」
「…………大事な本なのですよね?」
「貴重ではあるが、門外不出というほどでもない」

 本当だろうか。メルシアは首をかしげる。
 通常、こういった本は、家門の人間、あるいは嫡子しか見せないことが多いのに。

「……気になるのだろう? 顔に書いてある」
「え?!」

 つい顔を触ってしまったメルシアを見つめ、ランティスが「可愛いな」と小さく笑う。
 恥ずかしいうえに、笑ったランティスがあまりにカッコいいせいで、メルシアは赤面してしまった。
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