【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。

 メルシアは、馬車の中から茫然と、その事実を確認した。

(まだ、子どもだわ……。それにしても、王立騎士団の騎士服を着ているあの人……。助けに来てくれたの?)

 騎士服の上にローブを被っているということは、王立騎士団所属の魔道士なのだろう。

 彼女の足元に倒れるのは、黒い髪を持った、まだ幼さの残る少年。
 おそらく、まだ十二、三歳くらいだろうか。

「ふふっ。私と同じ、黒髪なんて……」

 いとも簡単なことのように、魔法の鎖を作り出して少年を拘束した女性は、メルシアの乗っている馬車のカギを、無造作に壊した。

「あの、私……。メルシア・メルセンヌと申します」
「メルシア嬢は、気を失っていたから初めましてだね? お初にお目にかかります。王立騎士団所属、上級魔道士アイリス。以後お見知りおきを」

 妖艶に笑ったアイリスは、軽く会釈をすると、ぼんやりと馬車を見つめて立ったままのランティスを半ば無理やり馬車に押し込んだ。

「無茶するよね……。君と君の婚約者は」

 アイリスが花火のような魔法を空に放つと、走り去っていたはずの馬が戻ってくる。
 その馬を、魔法の鎖で再び馬車に乗せ、アイリスは御者に告げる。

「あまりいい状況とは言えない。フェイアード卿。とりあえずフェイアード侯爵邸に戻るよ?」
「…………ああ」

 そして、再び馬車の扉が閉められる。

 アイリスは、紫色の瞳を深めて、上から下までランティスの姿を確認するように見つめた後、御者の隣に座った。
< 112 / 217 >

この作品をシェア

pagetop