【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。

「ランティス様……」

 相変わらず、その頬を汗が伝って、ランティスの呼吸は荒いままだ。
 珍しく寄せられたままの眉から、よほどの苦痛を耐えていることが察せられる。

「――――無事」

 ランティスが、そっとメルシアを抱きしめる。
 失ってしまいかけた、大事な人とようやく再会したみたいに。
 その体は、火傷しそうなほど熱い。

「ランティス様……」

 涙の痕が渇ききらないままのメルシアの頬をランティスの熱い手が拭う。
 高すぎる体温で、もうろうとしているのだろうか。
 ランティスは、ほんの少し焦点が合っていないまま、メルシアを見つめてほほ笑む。

「……俺はちゃんと守れりきれたのかな?」
「――――は、はい。完璧に守ってもらいました。傷一つないですよ?」
「そか……。よかっ」

 ランティスの重みが、メルシアにのしかかる。
 メルシアは、ランティスの背中に腕を回して、発熱する体を抱きしめた。

「――――着いたよ。いま、従業員の皆様呼んできたから。メルシア嬢も一緒に来て」

 浮かない顔のアイリス。
 普段、騎士団では軽薄な印象で笑っていることが多いアイリスのそんな顔は珍しい。
 もちろん、初対面のメルシアは、そんなこと知る由もない。

 
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