【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
オオカミ騎士の番
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あまりの暑さにとろけてしまいそうな夏に戻ったような秋。
ランティスは無心になって訓練の試合に臨んでいた。
汗がしたたり落ちる。それにしても暑い。もう秋が訪れたはずなのに。
「――――がんばって!!」
遠くから鈴の音のような声が聞こえる。
ほんの一瞬、そちらに目を向ければ、夢見るような瞳と、視線が合った気がした。
もちろん、そんなのはランティスの一方的な思い込みに違いない。
「メルシア・メルセンヌ」
王都の治療院で働きだしたという彼女は、治療院が休みの日になると、騎士団の公開訓練を見学に来る。
あの日、一緒に遊んだラティが、ここにいることなど知りもせずに。
ランティスの耳は、狼並みに優れていて、嗅覚も常人のそれではない。
だから、メルシアがこの場所に訪れれば、ランティスにはすぐそれが分かる。
メルシアの声も、その笑顔も……。
あれから、メルシアはよく訓練を見に来ている。
誰か、意中の騎士がいるのだろうか? そんなことを思うランティス。