【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
王立騎士団の最高峰の腕を持つ二人の、真剣さを帯びた剣の打ち合いに、周囲の騎士達がしばし訓練の手を止めて注目する。
「す、すごい! 王国中の人と推しのカッコよさを夜通し語り合いたい!!」
残念ながら、今日のランティスはいつものような集中力を欠いていた。
「……誰だそれは」
「スキあり!!」
その瞬間、ランティスは足払いされて、地面に倒れていた。
「ぐ。――――卑怯な」
「勝てば正義と言ってはばからない、隊長にだけは言われたくないです。書類仕事が掛かっていますからね」
ベルトルトは、騎士としての美しい勝ち方をかなぐり捨てて、勝ちを拾いに来たらしい。
そこまで書類仕事をさせたいのかと、差し出された手をつかみ「俺の、負けだ」と一言告げて立ち上がる。
振り返ったそこには、胸の前で手を組んで、やはり瞳をキラキラ潤ませた、メルシアの姿があった。
「騎士様の友情素晴らしい、そして、推しの騎士様が、潔い……。尊い」
夢見るようなつぶやきが、ランティスの耳をくすぐって、そして消えていった。
やはり、全力で勝ちを拾いに行くべきだったと、ランティスはひそかに後悔した。
「……ランティス様!」
その声が、ランティスの名前を呼ぶ。
これは夢に違いない。メルシアが、ランティスの名前を呼んでくれるなんて、そんな幸せあるはずないのだから……。