【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
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「ランティス様!」
ずっと、名前を呼んで欲しいと夢見ていた。
近づきたいのに、近づけば狼に変わってしまうこの体は、それを許してくれなくて。
――――メルシアが、誰かに愛されて、幸せに笑っているのを想像するだけで、ランティスは絶望のあまり、死んでしまいそうになる。
幼い頃のたった一度の出会いで、ここまで囚われてしまったことを、不思議に思いながら生きてきた。
それでも、ランティスは蜘蛛の巣に囚われたように、もがけばもがくほど、その気持ちから逃れることが出来ないのだと、さらに好きになってしまうだけなのだと、もう知っている。
「メルシアが近くにいる。いい夢だ」
「夢じゃないですよ。ずっと眠っていたんです」
「――――そうか。好きだ」
「はい?」
もどかしいほど、重い体を叱咤しながら、ランティスは起き上がる。
そして、ベッドの横に椅子を置いて座っていたメルシアに、ドスッと音がするほど勢いよく抱き着いた。
「わぷ?!」
「好きだ。メルシアが近くにいて嬉しい。好きだ」
「――――ランティス様?」
ラティがするように、メルシアに無邪気に突撃してきたランティスが、直後、ピシリと音がするほど急激に動きを止めた。
メルシアが見ているまに、その耳が赤く染まっていく。
(ランティス様は、耳から赤くなるんだよね。えっ、なにこれ。かわい……。尊い。うそ。私の推しの騎士様が尊すぎるのですが)
そのまま、おずおずと、ランティスは顔を上げ、メルシアをぼんやり見つめた後、「夢じゃない?」とつぶやいて、勢いよく離れる。その頬は、隠しようもなく赤い。
(ちょ、寝起きの推しが可愛すぎる件について王都中の人たちと分かち合いたい!)
メルシアは、しばらくの間、そのあまりの可愛さと、尊さに身もだえた。