【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「メルシア! なぜ止める」
「彼も被害者です!」
メルシアは、絶対に離さないとばかりに、ランティスに強く抱き着いたままだ。
「…………おかしな動きをしたら殺す」
「こわ。怖いよ、メルシアさん」
「こ、子ども相手に、ひどいです。ランティス様!」
メルシアの背中にかばわれた、少年は、確実に怖がってなどいない。
まだ幼さの残る容姿でありながら、あの実力。並の生き方をしてきていない。
けれど、そこがメルシアの甘いところで、ランティスはそんなメルシアだからこそ……。
「――――メルシア、頼むから離れてくれ」
「嫌です。子どもですよ?」
「何もしないと約束する。その少年が、何もしてこない限り」
「本当ですね?」
「ああ、剣に誓う」
「天下のフェイアード卿が、飼いならされている……」
少年は、そんなことを呟くと、俯いてメルシアから離れた。
「なんだか、毒気抜かれるんだよ。勘弁」
「子どもは、守られるものです」
「あのな? メルシアさんと俺は、三歳くらいしか、違わないから」
「……たしかに、三年前には私も」
メルシアの生まれ故郷、メルセンヌ領は、三年前、災害級の魔獣の被害を被っていた。
そんな中で、メルシアは自分が出来ることを探して努力してきた。
だが、それと同時に子どもとして守られてきたのも事実だ。
「それにしても、どういうことか、説明してもらえるのか? アイリス」
三人のやり取りを、一人離れて楽しそうに見学していたアイリスが、軽薄そうな笑みを深めた。