【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
時々、隊長の業務の一環として寮生を指導しに来ることがあり、ジークは多少の面識がある。
だが、笑ったところなど見たことがないし、指導も苛烈だ。
フェイアード侯爵家の嫡男だが、どんな泥にまみれた訓練にも文句ひとつ言わずに、寮生と一緒に参加しているところは、確かに好感が持てるが……。
そして、ジーク視点で見ても、金に近いオリーブイエローの瞳、白銀の煌めく髪、整った鼻筋と薄い唇。ランティスは、人外かと思うくらいの美貌を持っている。
「えっと、ベルトルト・シグナー卿ではなくて?」
ベルトルトはランティスと騎士団での人気を二分する騎士だ。
海のように青い瞳は、いつも穏やかに細められる。少したれ目で、優し気で、実際優しい美男だ。
剣の腕は、王国騎士流の美しいもので、見ているだけで感嘆のため息が漏れそうだ。
一方のランティスの剣は、実戦に重きを置いていて、型にはまらない。
強さを求める人間には、認められているが、王国騎士の流儀に反する戦い方でも、「騎士としての誇りを持ちたいなら、まずは生き残れ」と指導することに、眉をひそめる騎士も多いという。
姉が恋に落ちるなら、幸せが約束されるベルトルト・シグナーのような男に違いない、そう思っていたジークは、まさかの人選にひどく困惑したのだった。