【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
番外編 姉の婚約者(弟目線)
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ランティス・フェイアードは、多忙な業務の合間、久しぶりに騎士養成所の訓練を訪れていた。
「……今日も容赦がない」
ジークは一人呟いた。しかし、倒れた騎士候補生に手を差し伸べている姿を見れば、やはり「厳しい戦場で生き残ってほしいと嫌われ役をかって出ている」というメルシアの意見も正しいのだろう。
「次は誰だ」
「ジーク・メルセンヌです。ご指導宜しくお願い致します」
「……メルセンヌ」
少し目を見開いたランティスに、ジークはひそかに「おやっ?」と思った。
メルセンヌの姓に、反応したランティス。
ジークの勘が、正しいのであれば……。
しかし、やはり容赦ない指導に、ジークは数分もしないうちに、地面と仲良しになっていた。
「――――大丈夫か?」
「はい」
「少し、左足の踏み込みが弱いようだ。指導担当の騎士に訓練メニューを追加するように指示しておく。精進しろ」
「はい!」
やはり、目の前に差し出される美麗な顔に似合わない無骨な剣だこだらけの手。
その手を掴めば、力強く引き起こされる。
そして、ジークと目が合った瞬間、ランティスの瞳がほんの少し見開いたのを、ジークは見逃さなかった。
「……ありがとうございます」
ジークの瞳は、メルシアとまったく同じエメラルド色だ。
何事もなかったかのように去っていく、ランティスの背中をジークは見送る。
(……フェイアード卿は、姉のことを知っている。しかも好意を持っている?)
それから、ジークはランティスの観察をそれとなくするようになった。
その結果、ジークが得た感想は、メルシアが言っていることは一理あるということだった。
隊長であるランティスは、ベルトルトに指示をして、よく隊員たちのフォローをさせている。
騎士候補生の指導をしたときには、必ず弱点の修正の指示も行っている。
「――――姉さんは、時々真実を見抜くところがあるからなぁ」
だが、ジークは失念していたのだ。
姉であるメルシアが、異性からの好意に、信じられないほど疎いのだということを。
そして知る由もなかった。
完璧に見えるランティスの唯一の弱点が、メルシアであることを。