【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。

「実は最近、メルセンヌ領を支援するなんていって、姉にたくさん縁談が舞い込んでいるんだ」
「そうか、お前のところの領地、大変だったらしいからな」
「このままだと、姉は領地の支援と引き換えに、年老いた豪商に……」

 実際、現状でもメルセンヌ領は、復興しきったとは言い切れない。
 それでも、状況は上向きになってきている。ジークの生活だって庶民と変わらないが、メルセンヌ領が完全に復興するまで、贅沢しようとは思っていない。

 領地の復興を優先し、社交界からは縁遠くなってしまったメルセンヌ伯爵家。
 だが、それでも領地への支援とともにメルシアへの縁談を持ち掛けてくる豪商や貴族がいないわけではない。

 ……もちろん、メルセンヌ伯爵が、そんな縁談は握りつぶしている。
 メルシアには、幸せになってもらいたいというのが、家族全員の総意なのだ。

(こちらに、視線を向けた。え?)

 あまりに深刻な表情、握りしめられた手。しばらく地面を見つめていたランティスは、踵を返し、そのまま走り去っていってしまった。

「――――なんてな? 俺たちがそんな縁談握りつぶしているけどな?」
「そうか。まあ、家族には幸せになってもらいたいものだよな」
「そうだな……」

 ランティスの様子の変化から、もしかしたら余計なことをしてしまったかもしれないという気持ちと、してやったりという気持ちがせめぎ合うジーク。

 それから、たった数日後のことだった。
 正式な手順が踏まれ、メルセンヌ伯爵領復興への惜しみない支援と豊富な支度金、もちろん持参金不要の破格の条件付きの婚約申し込みが、フェイアード侯爵家から、メルセンヌ伯爵家に届けられたのは。

 通常、これだけの資金を動かすことも、貴族同士が婚約するための正式な手順を踏むことも、すべて長い時間がかかるはずだ。

(やば。フェイアード卿の本気を見てしまったかもしれない)

「えっと、なぜ私に? え? 明日死ぬのかな?」
「姉様は、見た目だけはいいから。どこかで、見初められたんじゃないかな?」
「…………え?」
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