【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。

『そ……。古来狼に姿を変える人間には、番という特別な存在がいたらしいわ』
『……つがい、ですか』
『メルメルの魔力の中には、フェイアード卿の魔力が混ざっている。普通は、人の魔力を無理に流し込んだら拒絶反応が起こるの、でも、この魔力暴走を、あなたなら抑えられるかもしれない』
『やります。方法を教えてください!』

(古来狼姿に変わる人間には、番という特別な存在がいるからって、アイリスさんは言っていた)

 メルシアにとっても命がけかもしれない。
 その言葉を聞いても、怖さなんて少しも感じなかった。
 目の前で苦しんでいるランティスを助けられる嬉しさのほうが、断然大きかった。

 それに、もしもランティスにとってメルシアが特別な存在なのだとしたら、それ以上の幸せなんてきっとないと、メルシアは思った。

『ランティス様……。私の魔力』

 そっとメルシアから寄せられたのは、アイリスに教えられた通りの方法と、口づけ。

(人命救助とは言っても、半ば意識のない人間に口づけするのは、少し罪悪感があったけど)

 それなのに、メルシアが口づけし、魔力を流し込んだ瞬間、ランティスはメルシアを強く抱きしめてきたのだった。

(お、思い出しただけで赤面する……)

 メルシアが光魔法を日常的に使っていたおかげか、ランティスの魔力の暴走は抑えることに成功した。

 けれど、一度魔力枯渇を起こした魔力回路に強い負担がかかったせいで、メルシアは光魔法が使えなくなってしまった。

 アイリスによると、光魔法が使えなくなったことが、一時的なものなのか、永続的なのかはわからないという。

(うん。後悔なんてもちろんない)

 もう一度、眠っているランティスの髪をそっと漉くと、なぜか口元を緩めて擦り寄って来た。

(かわいっ…………)
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