【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
口元を思わず押さえて、俯いてしまったメルシア。
けれど、直後ランティスが薄っすらと目を開ける。
眠りが浅かったのだろうか。
「…………おいで?」
「え?」
グイッと、手首を引いて引き寄せられる。
一週間寝たきりだった人間の力とは思えない。
(日頃の鍛え方が、違うからかしら……?!)
そんなことを考えている間に、気がつけばランティスに抱き寄せられたままメルシアは、ベッドの中にいた。
「あ、あの。ランティス様?」
ギュッと、抱き枕のように抱き寄せられてしまって、メルシアは逃れようもない。
それなのに、ランティスは、また眠りに落ちてしまったようだ。
「え……。もしや、ラティ?」
メルシアに擦り寄って、ぐっすりと眠ってしまった姿は、どう見ても狼のラティと重なってしまう。
(出会ったころと比べて、だんだんランティス様とラティの性格が混ざってきている気がする)
それにしても、これでは眠るどころではない。
心臓が高鳴る音が、布団の中で反響しているようだ。
「――――こんなの、困ります。ランティス様」
それなのに、ここ一週間、フェイアード侯爵家の従業員たちに、何度代わると言われても頑なにランティスのそばを離れなかったメルシアも、体力的に限界だったのだろう。
心臓の高鳴りよりも、ランティスの高い体温が、少し冷たいメルシアの体を温めていく。
「ランティス様……」
フワフワの狼の毛並みではないのに、抱きしめられた小さな空間は、安心できる場所なのは間違いない。
急速に訪れた眠気に逆らうことが出来ず、メルシアも夢の中へと落ちていった。