【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「どうして、ですか? ランティス様は、カッコいいし、強いし、優しいし、しかもモフモフですし」
「モフモフ……?」
「狼になるのを拒否していたように思えて……」
「――――自分が狼の姿になってしまったら、普通は恐れて嫌悪する」
無邪気に擦り寄ってくるラティの姿がメルシアの脳裏に浮かぶ。
(うん。可愛さしかない)
ランティスが、心の奥底でどんなに拒否しても、ラティはやっぱりランティスの一部であるように、メルシアは思えた。
そして、最近はメルシアのそばにいるために、それほどためらうことなく自分から狼の姿へとランティスは姿を変えるようになった。
「周りの人がどう思うかは、分からないですが、少なくとも私はラティも、ランティス様も、同じくらい愛しいですよ」
それはもちろん、メルシアにとって、大好きなランティスとラティが同一人物あるいは狼だからに他ならないのだが。
「狼と、同じくらい……。か」
肩を落としたランティスを、不思議そうに見つめるメルシア。
今日もメルシアとランティスはすれ違っているようだ。
残念なことに、ランティスが人間でいられる時間は、また短縮して30分ほどになってしまった。
メルシアの魔力が徐々に抜けてしまったせいなのか、ほかに理由があるのか。
その問題の答えは、まだ、誰にも証明できないのだった。