【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「っ、ふぁっ?!」
「危険なことに飛び込んだりしないで、待っていて」
「ら、ランティス様」
それ以上の言葉もなく、背中を向けたランティスは、もう振り返らない。
それは、よく知る騎士ランティスの姿であり、憧れの存在のはずだった。
おそらく、少し前のメルシアなら、凛々しいその姿を見ることができたことに、感謝を捧げていたに違いない。
(あれ? ……なぜ、こんなに寂しいの?)
その疑問への答えが、一つしかないことに気がついたメルシアは、慌ててランティスを追いかける。
正門近くで、馬車に乗ろうとしていたランティスが、振り返る。
「あのっ、今日も見に行っていいですか?」
「メルシア?」
「お仕事の邪魔にならないよう、近づきませんので……。公開訓練、ありましたよね?」
「…………」
軽く目を見開き、馬車の扉に伸ばしていた手もそのままに固まってしまったランティス。
困らせてしまっただろうかと、慌てた様子のメルシア。
その様子が、小動物のようでとても愛らしく見えてしまい、もう一度ランティスは笑う。