【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「それなら俺は、メルシアの期待を裏切らないように、よくよく己を律しなければ、いけないな」
「……律する?」
「メルシア、ぜひ見に来てほしい。やる気が出てきた」
「よかったです。クッキーをたくさん焼くので、騎士団のどなたかにお渡し」
「ダメだ。姿が変わってもいいように、時間をとるから、絶対に俺に直接渡すように」
食い気味に否定されて、キョトンと瞳を瞬くメルシア。持っていくのは、ダメではないらしいのに、騎士団の誰かに渡すのはダメらしい。
「ランティス様、それでは迷惑に……」
「ならない。誰かにそんなの渡して、相手が恋に落ちたらどうするんだ」
「えっ、そんなはず」
そんなはずないと思うメルシアと、そんなことになれば、それは確定された未来だと思っているランティス。
実際に遠目から騎士団を応援する可愛らしいメルシアに憧れていた騎士が多数いることをランティスは知っている。
「…………いいのですか」
「え?」
「…………ランティス様に、訓練後に差し入れを直接渡せるなんて、夢みたい。飲み物も持って行ってもいいですか?」
「……その可愛さで、朝から心臓を仕留めにくるのやめてほしい」
「え?」
思わず漏れてしまった小さな呟きは、メルシアには届かなかったらしい。
「……大歓迎だ」
「わぁ! 早速間に合うように、準備します! いってらっしゃいませ、ランティス様!」
走って去ってしまったメルシアに微笑みを向けた後、今度こそランティスは騎士として表情を改めて、馬車に乗り込んだ。