【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「――――推しの色を身に着ける。推し活を理解している侍女がいるのかしら」
残念ながら、そういうわけではない。
しかしランティスの応援に行くメルシアを、ランティスの色に飾り付けるのは当然と考えている侍女たち。
あまりに清楚で、可愛らしい物語から抜け出してきた妖精のような姿に、仕上げた侍女たちの間でひそかなガッツポーズが繰り広げられる。
「この髪型も、可愛いです。ありがとうございます、皆さん」
フワフワの淡い茶色の髪の毛は、清楚なワンピースにふさわしい程度に編み込まれて飾り付けられている。
「もったいないお言葉です。メルシア様」
どちらかというと、侍女たちからは、小動物みたいに愛らしく、優しく、純粋なメルシアが推されていることに、本人は気がつかない。
「それでは、いってきます」
「いってらっしゃいませ」
ご機嫌で馬車に乗り込もうとしたメルシアの視線が、一点を凝視したままになる。
メルシアの目の前に現れたのは、大人の色気をまき散らす、侯爵家の護衛騎士の制服に身を包んだ壮年の男性だ。
メルシアは、その人のことを、もちろん良く知っている。
「ハイネス……さん?」
「本日は、不肖ハイネスが護衛を務めさせていただきます。ランティス様にはいくぶん劣りますが、この屋敷で一番の剣の腕だと自負しております。同行をお許しいただけますでしょうか、メルシア様」
許すも何も、あまりの変化にメルシアは、返事もできずにただ頷くくらいしかできない。
いつもの執事服姿は素晴らしいが、なぜ今までこの姿ではなかったの? と疑問に思ってしまうほどハイネスは騎士服を着こなしている。