【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。

(……元騎士様なんだよね、ハイネスさんは。なんだろう、ご褒美かな?)

 優雅なエスコートは、いつも変わらない。
 ふんわりと馬車に乗り込むと、護衛として斜め向かいにハイネスが座る。

(ふわぁ……。王立騎士団の黒い騎士服は素敵なんだけど、侯爵家の護衛騎士の紺色の制服もカッコいいんだよね……)

 馬車で公開訓練に向かう。ランティスの婚約者として見学する。
 そのことが、メルシアのことを知らず知らずのうちに緊張させていたのかもしれない。
 けれど、ハイネスの姿でそのすべては吹き飛んでしまった。

「…………あの、どうして」
「――――訳あって騎士を引退しましたが、メルシア様とランティス様のため、一時的に復帰することを決めました」
「……尊いです」
「――――ご自由にご覧下さい?」

 珍しく口の端をあげて笑ったハイネスは、いつもの執事としてのほほ笑んだだけの笑顔と違い、どこか野性味を感じる。
 公開訓練見学を前に、すでにメルシアの気分は最高潮に達しそうだ。

(――――すばらしいのですが。王立騎士団はすばらしいけれど、元騎士様の執事とか、もう万能すぎると思いませんか?)

 いろいろと、感動しているうちに騎士団の訓練場荷馬車は停車した。
 メルシアが馬車から降りると、会場中の視線が集中した気がした。

(うっ。今まで、家族間で取り交わされただけで、婚約は公にしてなかったのに、この間ランティス様が、訓練後に抱き着いて来てからのうわさの広がり……。やっぱり注目されるよね)
< 160 / 217 >

この作品をシェア

pagetop