【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
靴を脱ぎ捨ててベッドの上に座ったメルシアと、おすわりをしたランティス。
そこには、色っぽさを感じる空気はひとつもない。
それでも、飼い主にしか見えない少女を見つめている白い狼の瞳は真剣で、少しでもその動作と声を逃さないとでも決めているようだ。
淡い茶色の髪の少女の唇が、ほんの少し震えた瞬間、白い三角の耳はその音を聞き流すまいと、ピクピクと動く。
「ランティス様……」
「ワフッ」
「……ラティ」
「……ワ、ワフ」
珍しくメルシアから逸らされたランティスのオリーブイエローの瞳。
少しだけ耳を染めたランティスが、恥ずかしがっている姿が、目に浮かぶようだ。
「ラティ!」
「ワフッ!」
会話は成り立っていない。だって、誰が見たって、メルシアが大きな白い犬に話しかけているようにしか見えない。
でも、白い壁と、ベッドが一つのこの部屋には、二人の他に誰もいないのだから、他人の目なんて気にする必要もない。
(いつも、ラティは、私に真っ直ぐ好意を伝えてくれた)
婚約破棄を告げられたあの日、ラティに告げた言葉は、本当はランティスにぶつけるべきだったのだと、今ならメルシアにもわかる。
だから、気がついたことを、メルシアはランティスに告げることにした。
「ランティス様、もしかするとランティス様が、私の前で狼になってしまうのは」