【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
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ピチャリ、ピチャリと規則正しい水滴が落ちる音がする。
ひんやりとした室内は、締め切られていたのかカビ臭い。
遠くのほうで、誰かの怒声や魔法を使ったような爆音が聞こえてくる。
それでも、メルシアはなかなか目を開くことが出来なかった。
(――――早く目を覚まさなくちゃ。ランティス様が心配する)
どれくらい意識を失っていたのか、薄暗い室内では、それすらもわからない。
「ランティス様……」
騒がしい音は、どんどん近づいてくる。
周囲に鉄臭いにおいが漂ってくる。
ギギ……と、錆びた蝶番が音を立てながら扉が開き、隙間からほんの少しの光が差し込んだ。
誰が来たのかと警戒しながら、メルシアはようやく重い瞼をうっすらと開けた。
赤い毛をした大きな犬。
その犬が、倒れこんでいるメルシアに飛び込んで来た。
(赤い……?)
荒い息遣い。走り続けてきたのだろうか。
どうやってこの場所を見つけたのだろう。
それに……。