【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「どうして? なにがあったの」
「は、初めから、メルシアの光魔法を調べるために、治癒院にいたの……」
その言葉を、魔法陣の中から聞こえた謝罪の言葉が否定する。
メルシアは、半ば確信していた。だって、たぶんマチルダがメルシアを陥れる理由なんて一つしか思い浮かばない。
「――――マチルダ、誰を守ろうとしているの?」
顔を歪めたマチルダとは対照的に、気づかわし気な表情を向けただけのメルシア。
マチルダの肩が揺れる。それは、明らかに肯定を示していた。
「大丈夫。理由があるってわかってるから」
「あいかわらず、バカがつくくらい……」
メルシアは、知っている。マチルダが、どんな人を相手にしたって、毎日自分の魔力の限界まで治癒魔法を使っていたことも。孤児院の子どもたちの相手だってお世話だって誰よりも率先して行っていたことも。
(そんなこと、嘘だったらできない)
だから、メルシアは、まるで、本気でメルシアを攫う気なんてないみたいに、簡単に振り払えたはずのマチルダの手を掴んだのだ。
(私一人……巻き込まれるだけだと、思ってしまった)
ランティスは、諦めることなく騎士と戦う。
得意の剣を使うこともできず、その体を赤く染めながら。
「ランティス様!」
けれど、訓練された騎士達と魔道士に、狼の体で、勝てるはずもない。
ほどなく、ランティスの体は吹き飛ばされて、メルシアの足元に倒れこんだ。
それでも、よろよろと起き上がろうとする体をメルシアは、抱きしめる。
「も、もうやめてください……」