【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「ランティス様?」
涙さえこぼすことが出来ないメルシアは、口元を引き結んで、どこか微笑んでいるようにさえ見える。
それなのに、その指先はひどく震えたままだ。
「――――どうやって来たんですか」
ところどころ差し込んだ光に輝く白銀の毛並み。けれど今は、そのほとんどが赤く染まってしまっている。
「――――私」
「ワフ……」
ランティスは、いつだってメルシアを助けるために無茶ばかりする。
当時のメルセンヌ伯爵領は、いくら剣の腕が立つからといって、新人騎士、それも上流貴族出身の騎士が赴任するような場所ではない。
メルシアのことを案じて、様々な手段を講じて、魔獣から守ってくれていた。
攫われれば、必ず助けに来てくれて、襲われた時だって、自分の命なんて二の次だ。
「どうして?」
震える手で、そっと赤く湿った体を撫でる。
たった一回会っただけのメルシアを、何度も助けてくれる理由なんて、見つかるはずもない。
(婚約破棄だって、私のことを考え過ぎたせいだって、やっとわかったのに……。もう一度、思い出して。あの時の魔法の使い方)
メルシアは、そっとランティスの口にキスをする。
そこから、流れ込むのは、魔力回路が焼き切れるほど使ってしまったせいで、光魔法を形作ることが出来なくなった、ただの魔力だ。
それでも、二人の魔力が混ざり合えば、ランティスの体はいつの間にか狼から人間に戻っていく。
「――――狼も」