【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
上級魔術師はかつての上司に誓う
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時間は遡る。
上級魔道士アイリスは、ランティスに咥えていかれたリス、クルルクを見送るとよろよろと起き上がった。
「あとから、かなり魔力を搾り取られるわぁ。あのリス、見た目と違って契約者に容赦ないから……」
よろめいたその体を、普段はそんな気遣いのかけらすら見せないマーシスが支える。
「あら、特級魔道士殿。そんな紳士的なことが出来るなんて、知らなかったわ」
「冗談ばかり……。まだ、魔力が流出している。無茶すると死ぬ」
「――――騎士団に所属するずっと前から、あいにくそれが日常なの」
マーシスは、言葉にあまりにそぐわない、その純粋な笑顔に息を止めた。
いつもの軽薄で妖艶な笑顔なんて、今のアイリスにはほんの少しも見られない。