【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。

 この場所に来た時に、徹底的に鍛え上げられた。
 音を上げそうになった時は、いつもあの厳しい横顔が浮かんで消える。
 戦場で、命を狙った幼いアイリスを拾い上げ、居場所を与えてくれたかつての上司。

 アイリスは、窓を開け、身体強化を使ってなんとか窓枠に足をかける。

「ふふ……。上級魔道士が、奥の手を持っていないはずないでしょう?」

 首から下げた魔石を咥えて、一気に奥歯の力を込める。
 数年かけてため込んだ魔力が、体を軋ませるように一気にアイリスの体に流れ込んだ。

「フェイアード卿とメルメルだけじゃない。勝手に飛び出してしまった可愛い弟子と、可愛い子たちも、そろそろ迎えに行ってあげないとね」

 ふわりと、窓から飛び降りた瞬間、異変を察知して駆けてきていたらしい騎士姿のハイネスのグレーの瞳と視線が交差する。
 いつも微笑んでいるか、厳しく口を引き結んでいるハイネスの表情が、焦りに歪んでいるのを見て、アイリスは思わず口の端を緩めた。

「まあ、見ていてくださいな? あなたが助けて、立派に育った部下の活躍を」

 軽やかに空中に魔法陣を構築すると、ランティスと行動を共にするクルルクとのつながりを頼りに、アイリスは転移魔法を発動した。
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