【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
手負いの狼は手懐けられる
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アイリスが、転移魔法で降り立ったのは、クルルクが合流したシンとマチルダの目の前だった。
一瞬だけ、目を見開いたシンは、鍛え上げられた精神力でどうにか平静を装う。
「……なんであんたがいるんだよ」
「弟子を助けに来たの。何か問題でも?」
「明らかに、さっき無茶な広範囲探索魔法使っていただろう?! 俺に質問するという選択肢はなかったのかよ」
「……子どもが、気にするようなことじゃないの。守られていなさい」
アイリスがチラリと目を向けた先には黒髪の女性。
潜入捜査を主にする彼女とアイリスが任務を共にしたことはないが、お互いに顔見知りなのは間違いない。
「……案内しなさい。子どもたちがいる場所を知っているわね?」
「逃げ切れないわ」
「……どうかしら? フェイアード卿は、絶対に彼らを追い詰めるわ。群れを率いる狼だもの」
マチルダは、一瞬だけ大きく瞳を揺らす。
子どもたちの安全と自由を秤にかけているのだろう。
だが、結局答えは一つしかない。