【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。

「ついて来て」
「賢明だわ」

 扉には見えないように、厳重に隠された壁の際に、その仕掛けはあった。
 通常は、許可がなければ開けることが出来ない。その場所を見つけることすら、知らない人間には不可能に違いない。

「――――相変わらず、ずいぶん厳重に閉じ込めているわ。……忌々しい」

 それでも、フェイアード侯爵家の強固に固められた馬車の封印すら簡単に壊したアイリスにとっては、それを壊すだけなら造作もない。もちろん、万全の状態であれば……だが。

「ふふっ。上級魔道士アイリス参上……」

 おそらく、今の状況でこれだけの封印を解除すれば、アイリスは魔力を完全に使い切るだろう。
 それは、かつてのランティスやメルシアが陥った状況に似ている。
 先ほど無茶をしたアイリスはもっとひどい状況に陥るに違いない。

 けれど、晴れやかな気持ちで、アイリスが触れようとした指先は、魔法の幕に阻まれた。

「――――え」
「させない」

 掴まれた腕は、後ろに引き寄せられて、代わりに無骨な指先がいとも簡単にカギの形をした封印を壊した。
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