【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
室内では戦いに不向きな大剣の代わりに、おもちゃみたいに見えるロングソードを振るいながらバーナーが呟く。バーナーの言葉に、珍しく同意を示すカルロス。怯えをにじませるディン。
「……誰かの手引きがあったようですね。それが、メルセンヌ伯爵令嬢を巻き込んだというのが問題ですが」
おびえていても、冷静な分析。騎士団では上位の腕でも、弓には劣るロングソードで戦うディンは、巻き込まれたというより始めからなぜかメルシアが狙われていたのではないかと疑っていた。
ランティスと戦っていた日々、縮まらない距離を不思議に思うほど、今思えばランティスの視線はいつも渦中のメルセンヌ伯爵家令嬢、メルシアに向かっていた。
狼に姿を変えることが出来る隊長が、執心するメルセンヌ伯爵令嬢。
メルセンヌ伯爵領を襲った魔獣の大量発生には、いまだに謎の部分も多い。
ロザリス公爵家が関係していたのではないかと、勘ぐってしまうのは、あまりに必然だ。
「――――どちらにしても、これは早く抜け出さないとまずいようだ。おそらく崩壊するぞ」
狼が食い荒らしたかのような惨状の廊下を走り抜け、一番奥の部屋に向かった三人。
すでに、副隊長であるベルトルトが入っていった部屋だ。
その部屋に突入しようかと、機会をうかがっていた時、珍しく緊張感を露わにしたベルトルトが、気配を消して部屋から出てきた。
「――――副隊長? いったい何が……」
「とりあえず、ここは問題ない。迅速に帰還せよ」
「え? それはいったい」