【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
ほどなく、眠ってしまったメルシアを横抱きにしたランティスが、部屋から出てくる。
あふれ出す殺気は、経験豊富な騎士たちの足をすくませる。
「死にたくなければ距離をとれ。人間の姿をしているが、潜入捜査中に狼姿のまま、丸一日経過した隊長だと思ったほうがいい」
「え……やば」
思わずディンから漏れ出した言葉を誰が責められるだろう。
潜入捜査をしている時、自ら姿を変えても時間を追うごとに、あるいは手負いになるたびに狼姿のランティスの行動は野性味を増していく。
その事を知っているのは、ここにいる四人と、騎士団長、元副団長、そしてアイリスくらいだ。
「……とりあえず、手負いの隊長は自力で脱出するでしょうから。……巻き込まれる前に撤退を指示する」
「は……」
四人のその判断は正しいのだろう。
ここまでくる間の惨状が、その事実を物語っているようだった。