【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「好きだ。好きだから」
「――――ごめんなさい」
迷うことなく取ってしまったマチルダの手。
いつも、メルシアを見守ってくれていた友人の助けを求めるような声を、見過ごすことなんて出来なかった。
でもその結果、ランティスをこんな目に合わせるなんて、メルシアは想像もできていなかった。
「ごめんなさい!」
「――――謝るのは、俺の方」
「え?」
「メルシアは、巻き込まれんだ。魔法を与える力を持つ、俺の血のせいで」
「……え? むしろ守られ続けているのは、私」
腕まで一緒に抱き込まれて、身動きが取れないメルシア。未だ、その瞳の険しさを抑えられないらしいランティス。
「えと、あの、離して」
「だめ。離したらどこかにいく」
「どこにも行きませんよ?」
まるで、ラティと話しているように聞き分けがないランティス。
メルシアは、その腕の拘束から逃れることはやめて、ランティスの体に擦り寄った。
清潔なシャツに着替えていても、そこからはまだ鉄のような香りがする。
「さ、離してください」
密着したまま告げられた言葉に、ようやくランティスがメルシアを抱きしめていた腕の力をゆるめる。
「……狼になること、認められましたか?」
「俺は」
「もう一度言います。どんなランティス様のことだって、好きですよ」
「……ああ。そうだな、狼は足が速いから」
ふふっと笑ったメルシアは、今度はお返しとばかりにランティスを抱きしめた。
「すぐに、メルシアのそばに行ける」
トンッと、ランティスが狼の姿になった。
メルシアは、低くなったその体に、体をかがめて抱きついた。