【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「ラティ……」
「ワフ」
摺り寄せられた柔らかい感触は、もう野生の狼のような冷たい風を纏ってはいない。
「――――目が覚めたら、もう助けに来ていたから、驚いてしまいました」
「ワフ……」
当たり前だとでもいうように、ランティスがメルシアに擦り寄った。
温かい感触。この感触をもう手放すなんて出来そうもないとメルシアは思う。
抱きしめたラティの毛並みからは、針葉樹とほのかな花の香りが今日も香る。
そして、鉄臭いにおいを覆い隠すようなシャボンの香り。
完全に混ざってしまった二人の魔力の香りは、混ざり合って爽やかに、優しく香る。
「――――どうしたら、ランティス様の気持ちに応えられますか?」
「ワフ?」
メルシアの言葉の意図が分からないとでもいうように、首を傾げたランティス。
その、太くてフワフワの首に腕を回したまま、その毛並みに擦り寄ったメルシア。
まるで、ずっと昔から、こんな風に過ごしていたようにさえ思える。
大好きすぎて、この香りが好きすぎて、ずっとこうしていたくなってしまう。
「好きですよ、ランティス様」
「ワフ……」
「ランティス様を巻き込んでしまってばかりの、こんな私でよかったら」