【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
ランティスが、狼の姿を受け入れられなかったように、メルシアにだって、受け入れられない自分が存在する。それは、ごく当たり前のことで。
「もったいないな」
「え……」
次の瞬間、柔らかく抱きしめられて、熱いほどの体温の中に閉じ込められていたメルシア。
「狼姿を受け入れたとしても、メルシアに言葉を返したいんだ」
「――――ランティス様」
「好きすぎて」
もう一度、覗き込まれた二つの月みたいな瞳。
その色は、もう野生の色なんて宿していない。
ただ、その瞳が伝えるのは恋慕。
「好きだ。すぐに結婚して?」
嫌じゃないとしか、その言葉に応えることが出来なかったメルシア。
コクンと冷たい飲み物を飲んだみたいに、メルシアの喉が音を鳴らす。
もう、一つの返答しか持っていないメルシア。
だから、その質問は、少しズルいと思う。
「――――いいえ」
「――――メルシア」
「その言葉、今度は私から……」
メルシアは、笑った。
それは、幼いあの日、ラティに向けた無邪気な笑顔と重なる。
「私と結婚してください、ラティ」
「…………喜んで」
メルシアは、手負いの狼を手なずけた。
それは、二人にとって、これから先の長い期間ずっと続く関係なのかもしれない。
狼であることを受け入れ、メルシアの魔力を半分受け取ったランティスがラティになってしまうことは、もうないのかもしれない。
それが事実なのかは、誰にもまだ、分からないのだけれど。