【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
それゆえに、メルシアは周囲から敵意の視線を向けられるどころか、逆にその可愛らしさと健気さで、見守られていたりもする。
「明らかに、天才肌なのに、王国の平和のために努力を怠らないランティス様。その存在こそが王国の聖剣」
「あなたの夫になる人だわ」
「え?」
「もうすぐ、あなたの夫になる人よ」
「………えっ」
そんなことは忘れて、推し活に精を出していたメルシアが、美しいエメラルドのような瞳を瞬く。
「マチルダ?」
視線がまっすぐ向けられる。
そこには、黒髪を揺らしたメルシアの元同僚、マチルダがいた。
「お久しぶり……」
「っ、会いたかったマチルダ!」
メルシアの斜め後ろに控えていた、フェイアード侯爵家の護衛騎士服姿のハイネスが、警戒しているのをものともせず、メルシアはマチルダに抱きついた。
「……相変わらずね。そんなに警戒心ないと、また攫われちゃうわ」
「……気をつける。ところで、子どもたちの様子はどう?」
黒髪と闇魔法を持つが故に、公爵家の暗部で育成されていた子どもたちのほとんどは、帰る場所がない。
だから今は、拡張された孤児院にいる。
フェイアード侯爵家により学校も併設され、心のケアを受けながら暮らしている。
「色々あるけど、これからは幸せになれるはずだわ。小さな子たちは、もともといた子どもたちと仲良く遊んでる」
「そう……」
「少しだけ抜け出してきたの。メルシアに会えるかなって。それじゃまたね」
「うん! またね!」
王立騎士団からの尋問を受け証言台に立ったあと、マチルダは、孤児院の責任者として働いている。
治癒院の院長も、話を聞いたところ快く協力を申し出てくれた。
それに、匿名で多額の寄付があったらしい。