【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
そのまま、メルシアの頬をぺろりと舐めたランティス。
そういえば、最近は変身のコントロールができるようになったせいで、狼姿になってもランティスはランティスだ。
(えっと……。ラティに会えなくてさみしいなんて思ってしまった罰なのかしら? どうしよう……)
抱き着いたまま離れないランティス。
幸いなことに、本日はランティスは非番だ。
けれど、このまま元に戻らなかったら…………。英雄ランティスが、戦えなくなってしまったら、王国の危機なのではないだろうか。
ひそかにメルシアの背中を冷たい汗が伝う。
「メルシア……。俺といるのにそんな顔」
「ひぇ!」
「そんな声…………」
そっと頭を撫でられて、ランティスの長い指の間から、淡い茶色の髪の毛が零れ落ちていくのを、メルシアはぼんやりと見つめ、そして赤面した。
「あ、あの。ランティス様!」
「ラティ…………」
「ら、ラティ!」
「うん。メルシア、好き。メルシアは?」
「す……好きです」
(どうしよう……。ランティス様が、完全に狼化してしまった)
ランティスは、もしかしたらラティに時々変身したほうがいいのだろうかと思い悩むメルシア。
一向に、狼姿になる様子もなければ、元に戻る様子もないランティス。
結局、そのあとも一日中、ほとんどゼロ距離のまま二人は過ごした。
メルシアも、途中で吹っ切れてしまい芝生を転げまわって遊んでしまった。
芝生の上で、抱きしめられて夕焼け空を見上げる。二人とも泥だらけだ。
平和な一日だったのかもしれない。
その時、メルシアの体をランティスがひときわ強く抱きしめた。
「楽しかったけど……。これは呪いなのかと思わなくもない」
「ランティス様?」
「――――思いのほか、ラティ姿でいることで、幸せを味わっていたのかな」
「えっと…………。私は、どんなランティス様も」
「今は、正常な判断が出来そうもないから煽らないで」
……それならいったいどうしたらいいのか。
その答えは出ないまま、メルシアはもう一度ランティス腕に擦り寄り、夕焼け空を見上げた。