【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
貧乏伯爵令嬢は推し活に精を出していたのです
「ラティ。あったかいね」
「ワフ……」
ラティが芝生に寝そべる。
薔薇の香り、可愛いモフモフ、美味しいスイーツ。ここは天国に違いない。
庭園に降り注ぐ初夏の陽光が気持ちよくて、メルシアの瞼は、だんだん重くなっていく。
ランティスとの出会いに、思いを馳せる。
それは、何度も夢に見た、やり直したい場面でもある。
***
(あれ? 私)
直前までの出来事が思い出せない。
けれど、確かに目の前で、一人の騎士が血まみれになっている。それだけは事実だ。
あの時、孤児院を抜け出した子どもを追いかけてきたメルシアは、人攫いと対峙することになってしまった。
なんとか子どもを抱きかかえ、逃げようとしたけれど、子どもを抱え、逃げ切れるわけもない。
そんな時に、メルシアを助けてくれたのは、赤毛の騎士だった。
巡回中だった騎士は、間に合わないとわかるや、ナイフを向けられたメルシアと子どもを、身を挺してかばってくれたのだ。
「き、騎士様!」
「……間に合わなかったか」
そこに現れたのが、ランティスだった。
無言のまま、ランティスは、人攫いを手刀で気絶させる。