【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「これは……。油断したな、ベルトルト」
「ぐ、面目ありません」
「治癒師が来るまで、間に合いそうもないな。言い残すことは」
「……妹を」
表情を変えないまま、しゃがみ込んだランティスは、「わかった」と、短く答える。
ぼたぼたと地面を濡らしていく朱色。
「ち、治癒師ならここにいます!」
メルシアは、服が汚れるのも気にせず、倒れ込んだベルトルトを抱き上げると、必死になって治癒魔法を唱える。
メルシアの治癒の力は、それほど強くないし、魔力量だってそれほど多くない。
「は、早く! 早く、ちゃんとした治癒師を連れてきてください! 騎士団にならいるでしょう?!」
「……メルシア・メルセンヌ」
なぜか、メルシアの名前を呼んだランティスは、ひとつだけうなずくと駆け出していった。
それを見送ると、メルシアは、魔力の残量なんて考えずに、全力で治癒魔法を使い続ける。
光が弱くなっていっても、完全に傷が塞がることはない。