【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「……ご令嬢、これ以上は、あなたの命に関わります。俺の力不足が招いたことですから」
ベルトルトが、微笑んでメルシアに告げる。
その言葉を聞いても、ブンブンと首を振って、メルシアは魔法を使い続けた。
「どうして……」
「私たちを守ってくれた人を、見捨てるくらいなら、私っ!」
こぼれ落ちた涙に見惚れたように、その青い瞳が見開かれ、ベルトルトはそれ以上メルシアを止めるのをやめた。
「は、はぁっ。間に合った……か」
息を切らしたランティスの声を聞いて、安堵のあまりふらりと後ろに倒れるメルシア。
けれど、地面に体がぶつかる衝撃は訪れず、すっぽりとなぜか安心できる腕の中にいた。
「良くやった。………………メルシア」
メルシアを抱きかかえ、顔を覗き込んだ騎士ランティス。そのあまりの美貌と、宝石のようなオリーブイエローの瞳に釘付けになる。
なぜ、名前を?
これで、助かりますか?
どこかで、会ったことが?
たくさんの疑問が浮かんでは消えていく。
けれど、その前にぼたぼた、という音が思考をかき消す。
出会ってから初めて、焦ったようなランティスの顔。鼻に触れたら、真っ赤に染まったメルシアの手。
「はっ、鼻血?!」
慌てた様子で差し出され、鼻を押さえてくれたランティスのハンカチが赤く染まっていく。
(こんな素敵な騎士様の前で鼻血とか、カッコつかないなぁ。恥ずかしいよ……)
そんなことを考えながら、体の中を流れる大事な線が焼き切れてしまったような感覚に、メルシアは意識を失ったのだった。