【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。

長期休暇はモフモフとともに



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 ランティスが肩にかけてくれたマント。針葉樹のような、淡い花のような香りは、消えるどころかより強く香っているようだ。
 まるで、先日の記憶が、時を追うごとに、どんどん鮮明になって、繰り返し思い出されるのと同じように。

(返す間もなく、馬車に乗せられてしまったから、家に持って来てしまったのよね)

 そして、ここ数日、メルシアは、毎日そのマントを眺めては、ため息をついていた。
 返そうと思えばすぐに返すことは出来るに違いない。
 執事のハイネスに、渡せばいいだけのことなのだから。

 それなら、まだ返すことが出来ないのは、どうしてなのだろう。
 この香りのせいなのだろうか。
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