【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
メルシアは、ランティスの額に、性急な仕草で小さくて、少し冷たい手を添えた。
「っ……熱、なんて」
「うそです! お顔が赤いです」
「それは、君が!」
口を開こうとしたランティスの唇が、少しだけ歪んでほほ笑む。
そのまま、額に当てていたメルシアの手首が掴まれて、流れるように、その場所に口づけが落ちた。
「ひゃんっ?! ラ、ランティス様」
「……ほら。メルシアの頬も、真っ赤になっている。かわいい」
今度こそ、真っ赤に染まるメルシアの頬。
いや、おそらく頬だけではなく、全身が上気しているに違いない。
(え? え? どうしてしまったの、ランティス様?!)
動揺を隠せないメルシアと、少しだけ歪んだままの笑みで、メルシアを見つめているランティス。
「く。……かわいすぎないか」
「え?」
「なんでもない」
つぶやきは、メルシアには聞こえず、小さく首をかしげる。
その姿は、小動物のように可愛らしくて、ランティスは、誰にも見せたくないとばかりに、掴んだままだったメルシアの手首を軽く引いた。
「はあ……。それほど時間がないな。とりあえず、中に入ってもらえるかな」
「……押しかけておいて、今更なのですが、いいのですか?」
「お願いしないと、入ってもらえないのかな」
「いっ、いいえ!」
ランティスは、メルシアの扱い方がだんだんと上手くなってきたようだ。
「メルシア……。本当はずっとここにいて欲しいくらいだ」
「…………えぇ?」
本当に、今日もランティスはおかしいと、メルシアは長いまつ毛に縁どられた、真ん丸の瞳を瞬いた。