【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。
「ごめんなさい! あの、しわになって……」
「メルシアはずっと、俺のマントを抱きしめていたからね」
「っ……あ、あの」
「それだけのことなのに、俺は」
するりと、マントがメルシアの手から、ランティスの手に渡る。
愛しいものが戻ってきたとでもいうように、ランティスがマントに長い指を滑らせた。
二人の間に、沈黙が訪れる。
心臓の鼓動が、ランティスに聞こえてしまうのではないかと、メルシアは動揺する。
「――――でも、きっと、マントを返しに来たんじゃないだろう? メルシア」
うつむいたままの、ランティスが小さな声でつぶやいた。
いつも、低いよく通る声をしているランティスが、こんなに自信なさげにしゃべるなんて滅多にない。
「……長期休暇を取ったと聞きました」
「ああ。休暇がたまっていたからね……」
「今までそんなこと、ありませんでしたよね?」
ずっと、遠くから見ていたことや、情報を手に入れていたことに気がつかれたら、もっと嫌われてしまうかもしれない。それでも、メルシアはそのことを聞かないわけにはいかなかった。