【電子書籍化】飼い犬(?)を愛でたところ塩対応婚約者だった騎士様が溺愛してくるようになりました。

 それを言うなら、ランティスだ。
 婚約破棄の日に「なんでも叶えると誓う」と、心配になってしまうほどの言葉をメルシアに言ったのは、いったい誰なのだ。

 頬を膨らませたメルシアを見つめるランティスは、そっと淡い茶色の髪を一房すくい上げる。

(え…………っ)

 まるで、それは王子様がお姫様にするような口づけだ。
 茫然と見つめるメルシアと、どこか思案気な瞳で、口づけを落とした髪を見つめるランティス。

「……ラティと遊びながら、待っていてくれるかな。用事を済ませないといけないから」

(そういえば、いつもそうだ。ランティス様は、私と短時間しか一緒にいられないと告げる時、いつも目を合わせてくれない)

 そのことに、少しだけ違和感が残る。

「今日も、治癒院で仕事だよね。戻ってきたら、その時に送っていくから」
「あの、ひとりで行けます」
「――――最近王都で起きている事件知っている? メルシアは危険なんだから自覚して」

 今度の言葉は、真っすぐメルシアの瞳を見つめながら告げられる。

 たしかに、最近王都では光魔法の持ち主をターゲットにした事件が、頻発していた。
 騎士団がすでに捜査に乗り出しているらしいが、犯人は捕まっていないらしい。

 一緒にいるのが嫌というわけではない、そしてメルシアのことを心配してくれているのも理解できる。
 けれど、いつもランティスが一緒にいてくれるのは……。

(30分に満たない……?)

 ランティスは、どう考えても行動と言葉が伴っていない。
 それなのに、メルシアを見つめる視線は、熱を感じるほど真剣で真っすぐなのだった。
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